普段、あまり行かない劇場に行き、舞台から少し離れた席に座った。 混んではいなかったが適当にお客がいて私はその中のひとり目立たない存在だった。 もちろん踊り子さん達は私の顔を知らない。こんな状況だった。 一巡して、トリの踊り子さんのオープンの時、彼女が私の方を指差して 「あなた、楽屋で評判いいよ」と話し掛けてきた。 私の頭は一瞬パニック状態になり、言葉の意味が理解できなかった。 「あなた、楽しそうに一生懸命見てるってみんなが言ってるよ」 私は焦った。 こちらが見ているつもりが、向こうからも見られていたのだ。 どんな顔で見ていたのかを想像したら恥ずかしくなった。 前にもこんなことがあった。 あるお姐さんのステージを見る時、なぜか私は緊張してしまい、 無意識のうちに椅子の上で正座して背筋を伸ばして見ていた。 そのお姐さんは私の様子に気付き大笑いされてしまった。 彼女たちはお客の様子をよく見ている。 臆病な私はよそ見はもちろんまばたきするのにも緊張する。 もっとも、素晴らしステージの最中にまばたきするなんてもったいない。 こんな気持ちで見ている私は、またどこかで、 「あなた、楽屋で評判いいよ」と言われるかもしれない。 別にそれを狙っているわけではないけれど。
[舞太郎](1996.04.11)