半年程前の夕方、 用事があって遠方の劇場にのっている踊り子さんに電話した。 いつもの調子ではなく、なんだか様子が変である。 嫌われたのかとも思ったが恐る恐る聞いてみた。 「なんか変だね。機嫌が悪いの?」 「風邪ひいて熱があるの。機嫌じゃなくて具合が悪いの。」 そうかそういうことか、少し安心して納得した。 「今日は休めるの?薬は飲んだ?」 「休めないし薬は嫌い。だって不味いんだもの。子供用の薬だったら飲めるけど。 ご飯もここ2、3日喉を通らないの。果物だったら食べられる様な気もするけど・・・・」 「がんばってね」と言って電話を切ったあと腕時計を見た。 午後6時半。頭の中で物凄いスピードで幾つかの可能性を考えた。 私のなすべきことは、 その1.あり金を持って出かける。 その2.果物をたくさん買う。 その3.子供用の甘い風邪薬を買う。 その4.彼女のいる劇場まで高速でかっ飛ぶ。 その5.朝までに戻ってきて仕事を休まない。 なんとかスケジューリングができ、出発した。 劇場に着いた時、果物がいっぱい詰まった大きなダンボールを持っていたため、 従業員さんに不信がられた。 彼女が何を食べたいのか見当もつかなかったので、 お店にあった果物を全種類買ってしまった。 フィナーレの時、そのダンボールをドサッ!!とステージに置いた。 フィナーレを選らんだのは他の踊り子さんに手伝ってもらって 舞台裏まで運んでもらえるだろうと考えたからだ。 他の踊り子さん達にはウケていたようだが当の彼女にはあきれられてしまった。 旅先で体調を崩すと辛いものがある。 親しい人がいればよいのだがそうでないときはなおさらである。 まわりの人は働いているわけだし、 薬ひとつを買ってきてもらうにしても頼み辛い場合もある。 今回はそういうケースではなかったけれど、 お節介な私はやれることはやってあげたいと思った。 私が持っていった差し入れのほとんどは他の踊り子さんの腹の中に納まったようだが、 「彼女もいくつか口にしたし、薬も飲んでいた」と聞いてホッとした。
[舞太郎](1997.06.30)