一人相撲

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  この忙しい最中、同僚たちの監視の目をかいくぐってこっそり劇場に行ってきた。

日曜日くらい少しは自由がほしい。もう我慢できなかった。

  朝早く目がさめ、一人の踊り子さんのことをなんとなく思い出したら、

身体が勝手に動き出してしまったのである。

考えてみたらもう一年近くもご無沙汰している。

どうしようかと迷いながらも劇場の前まで来てしまった。午前8時前の話である。


 まだ誰もいない劇場の前で数分間ぼーっと立っていた。

(やっぱり帰ろう)と思いながら駅の方に向かって歩き出すと一人のお客がやってきた。

(嘘だろ? 開演は12時、まだ4時間近くもあるのに今から並ぶの?)

なんて思いながらも、私は本能的に後ろに並んでしまった。

数分してもう一人、そしてもう一人、じょじょに列が長くなっていった。

開場前にはなんと30人ほどが並んでいた。

(よくもまぁ、こんなに寒い中、じっと並んでいるもんだよなぁ。)

それも私を含めほとんどが30〜40歳代らしきいいおやじ達がである。

異様な光景に心底感心してしまった。


 開場時、私は本能的な行動ゆえに絶好の席を確保した。

それから開演まで1時間の余裕があったので外出した。

(せっかくだからお花でも買ってゆこうかなぁ)なんて漠然と考えた。

思い返してみたが、彼女に差し入れとかのプレゼントを渡したことは一度もない。

(サインも頂けるかなぁ?)なんて考えて色紙も買った。

すべて行き当たりばったりの私らしい行動である。



 久しぶりに拝見する彼女のステージになんだかドキドキした。

(うーん、なんだろう? これって?)

オープンの時、勇気を出してちっちゃな花束と色紙を差し出した。

彼女は一瞬、(えっ!?)っというような表情をした。

そこはプロ、彼女はすぐに笑顔になり、握手をして立ち去った。


 何人かのステージのあと、やがてフィナーレとなり、彼女の登場を待った。

しかし、出てきた彼女は色紙を持っていなかった。

私にとっては予期しない事態である。

(あれ? 忘れちゃったのかな?

 それとも私なんかにサインをするのは嫌だってことかな?

 なにか恨まれることしたっけ?)

だんだん不安になってきた。

(次のステージのオープンのときにでも渡してくれるのかなぁ?)

なんて、希望的観測をして自分自身の動揺を押さえた。


 休憩時間、ロビーでのタバコを吸い終えて場内に入ると、

彼女が色紙を持ってキョロキョロウロウロしていた。

とっさに彼女の肩を突つくと満面の笑みで振り返ってくれた。

「○○さん、びっくりしちゃった。かわいいお花ありがとう」

と彼女は言った。すごく喜んで頂けたようだ。

そして場内の私のところまでわざわざ持ってきてくださったのだ。

彼女を喜ばせるために劇場へ行ったのではないが、

私が現れたくらいでここまで喜んで頂けるとは私の方も嬉しくなった。

そしてホッとしたのと同時に、

(この人は良い人)っていう思いが脳裏に刷り込まれた。

なんだかとてもイイ気分になって劇場をあとにした。



 数時間後、厳しい雰囲気の漂う職場に戻った。

この心温まる嬉しい出来事を仕事に追われている同僚達に話すと、

皆いっせいに(バッカじゃない!!)という顔をした。

「相手はプロですよ。そうやってお客の心を掴んで引き寄せるんですよ」

「こういうきっかけではまっていって追っかけになっていくんですよ」

なんて冷たい言葉で攻撃してくる。

いくら仕事を押し付けられたからっていくら私だけがいい思いをしてきたからって、

なんてロマンのない寂しい奴らなんだ。

 奴らが言っていることくらいこっちは百も承知である。

こっちの一人相撲でいいんだ、ちょっとした出来事を楽しんじゃえば。それがストリップ。



  彼女、来週はどこだっけ?

こうやって追っかけになってゆく・・・・なるほど。


[舞太郎](1999.3.29)


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