待つ習性

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  10年程前、友人からクリスマスのパーティー券を買わされた。

あまり乗り気でなかったが特に予定もなかったし、

某女子短大が主催するパーティーで男が足りないからと強く頼まれたので承諾した。


  当日はドレスアップした男女が所狭しと集まった。

酒の飲めない私は隅っこのほうでヘラヘラしていた。

たまたま隣に座った子がスキーが趣味ということでスキーの話題で盛り上がった。

私の家がスキー場のすぐ近くにあると聞いて彼女は目を輝かせた。

「遊びに行っていいですか?」の問いに私はすぐにOKした。


  数日後、彼女が大きな荷物を持ってやってきた。

当時、新築の一軒家に一人で寂しく住んでいたため、

私にとって彼女の滞在は大歓迎であった。


 彼女の持ち物でたまげたものがある。彼女のスキー板だ。とにかく長いのである。

私も体の割には長めの2m以上の板を使っていたが、

身長155cm程の小柄な彼女が、私のより長い板を持ってきたのだ。

「誰かの借りてきたの?」と聞いたら、

「わたしのよ、わたしスピード狂なの」と笑っていた。


  夜、もう一つ驚かされた。

なりゆきで彼女といっしょに風呂に入ったのだが、彼女の太股の太さにたまげた。

服を着ていた時はほとんど分からなかった。

それも筋肉なのである。指で押しても堅いのである。

「なんなの、これ?」って聞いても彼女は笑っているだけだった。


  翌日、予定通り二人でスキーに出かけた。

リフトを降り、(さぁ、お手並み拝見)と思っている間に、

彼女はコブ斜面に飛び出して行った。

私も後を追った。いや、追おうとした。

しかし、ついて行けなかった。あんな滑りははじめて見た。

混雑しているコブ斜面をクラウティングスタイルで真っ直ぐ滑って行く。

人をよける時だけすっと体を動かし、少しだけ曲がる。

雪煙をあげながら、コブの頂点を跳ねるようにかっ飛んで行く。


   下で待っている彼女の元へ、ゼーゼーいいながらたどり着くと、

「ごめんなさい、わたし滑り出すと人が変わっちゃうの」

「あんな滑り、はじめて見たよ。なんなのあれ?」

「だから言ってたじゃないの、スピード狂だって」

  その後、私は一日中、ゼーゼー言わされた。


  帰り道に近所で買い物をした時、本売り場で彼女が手招きをした。

私が近づいて覗き込むと、彼女はスキー雑誌を広げていた。

そしてまた驚かされた。なんと目の前にいる彼女がそこに載っていた。

彼女の滑りが解説されていた。

ななめ読みすると、彼女は日本のトップ・ダウンヒルレーサーとして紹介されていた。

彼女の方を見ると、やはり笑っていた。


 翌日も翌々日も、またその翌日も、

彼女とスキー場に行ったが私はいっしょに滑るのをやめ、

彼女が滑っている間、コーヒーを飲んで待っていることにした。

来る日も来る日も彼女の滑りを眺め、待っていた。

そんな時間を結構楽しんでいた。


 踊り子さんとの友達付き合いで、

“人目につかないところで待つ”という場面が多々あるが、私はまったく苦にならない。



 キラキラ輝く人を遠くから眺めて待つ。

  この習性はたぶんあの時に身についたんだろう思う。



  最近腹が出てきたのを何とかしようと、今日、久しぶりに単独スキーに出かけ、

ふと思い出し、ふと思い当たった。



[舞太郎](1998.12.29)


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