一飯の恩

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 朝から劇場入りし、3回目途中になり、

そろそろお腹が空いてきたので

ご飯を食べようと外出券を貰って外に出た。

財布の中を覗いたが心もとない状態であった。

(ダメもとでチャレンジ!!)と、

A姐さんに携帯メールを入れた。

「姐さん腹減った。

 ポラ買い過ぎで金なし。なんかご馳走して。」

1分ほどして返信が来た。

「アホ! しょうがないねぇ・・・そこで待ってな。」

(ラッキー!)と思いながらも、

娘ほどの年齢の女の子に、“姐さん”とひれ伏し、

“アホ”呼ばわりされ、それでも嬉しいと感じるこの自分。

すこし、Mっ気があるのかも。


 (吉牛か松屋か? 

  もう少しゴマすっときゃ、

  生卵付きかも知れない)なんて、

考えながらしばらく待っていると、

 A姐さんが楽屋口から出てきた。

「コラッ!! このエロオヤジ!!

 踊り子にタカる客があるか!!

 昔から、タカるのは踊り子、

 タカられるのは客って相場が決まっているだろうが!!

 身の程をわきまえろ!! って言ったところで、

 舞ちゃんには無意味か・・・着いてきな。」

 みすぼらしい40男が、繁華街のど真ん中で、

舞台化粧のままの派手で綺麗な20前後の踊り子に

叱られている姿、結構快感かも・・・。


 A姐さんの後をついて行くと

意外なことに寿司屋の前で止まった。

(回転寿司だけど・・・)

「ここでいい?」

「すっ寿司ご馳走してくれるんですか? もちろんOKス。」


 カウンターに二人並んで座った。

「さぁ遠慮しないでどんどん食べな、

 ここはA姐さんに任せときなよ、

 昨日、ギャラ貰ったばかりだから」と

バッグのなかから茶封筒をチラッと見せた。

お腹ペコペコの私は、次から次へと皿を取って食べまくった。

(なんだか機嫌がよさそうだ)と思いながら、

勇気を振り絞って、高そうな絵皿に手を伸ばそうとした。

「ところでさぁ、さっきのメール、

 『ポラ買い過ぎで金なし』って書いてなかったっけ?

 うん、書いてあった。今日、あたしのポラ買ったっけ?」

A姐さんは、横目でこちらを見ながら言った。

(やばぃ、義理でも一枚ぐらい買っておけばよかった・・・)

「今日は、だれのも買ってないよ。

 ここんとこいろんなところで買いすぎちゃってぇさぁ。」

(なんとかごまかせそうかな・・・・)

「だれのも買ってないの? 

 ふーん、でもさぁ、さっきフィナーレの時、

 Mチャンからサインポラ受け取ってなかったっけ?」

(な、なんとか持ちこたえなければ・・・・)

「あ、あれね、昔撮って預けておいたのが出てきたって、

 それで貰ったの、今日のじゃないから。」

見え透いた嘘でその場を切り抜ける。

「ふぅーん」

(よっしゃ、勝ったぁ、絵皿ゲット。)

何とかその場を凌いで、

絵皿を含め、15皿食った。

劇場で差し入れの弁当を食べてきたというA姐さんは、

2皿突ついただけだった。


 劇場に戻って別れ際に、A姐さんは

「舞ちゃん、このまま食い逃げするなよ!

 ちゃんとステージ見ていってね」と言って、

出てきた時と同じ楽屋口に消えていった。


 (さぁてと、食欲の次は、ストリップ欲、満たさなきゃ)

外出券をモギリで見せて再入場し、

確保しておいた席に座り、手拍子に加わった。


(・・・・・・・・・・・・・・・・・)


 (なんだか、聞き覚えのある音が聞こえる。

A姐さんのラストオープン曲・・・・・・・、

んっ・・・・・、

やっやばい! 居眠りしちゃった!)

目を開けてステージをみると、

盆の先端には仁王立ちしたA姐さん。

履いていたハイヒールを脱ぎ、

それを手に持つと、客席に降りてきた。

そして、逃げるまもなく、

とんがったヒールの先で、私の頭を思いっきり殴った。

「ねっねっ寝てるヤツがあるかぁーーー!!!」

涙が出てきた。メチャ痛い。

食い逃げしていた方がまだマシだった。




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註)A姐さんへ。寿司はご馳走さんでした。

  一飯の恩は忘れません。

  ここで書いている居眠りについてはフィクションです、

  作り話。

  神に誓って寝ていません。

  それと、ヒールの先で殴られるのは、本当に痛いです。

  この部分はノンフィクション。

  危ないですから絶対にやめてください。


[舞太郎](2003.11.04)


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