飲み会に参加した。普通の飲み会だ。 踊り子さんが12人、 お客が5人と賑やかな集まりだった。 みんなはざわざわしながら順番に詰めて着席していった。 私の隣にはMちゃんが座った。 お通しやグラスが配られ、ビールが注がれた。 みんな揃っての乾杯も終わった。 それぞれが勝手に話し始めた。 私はMちゃんに 「はじめまして、鈴木です」と挨拶をした。 Mちゃんは 「はじめてじゃないですよ」と口を尖らせた。 私は口に運びかけたピーナッツを 宙に浮かしたまま固まってしまった。 どこかで会ったことあるのだろうか? 記憶にない。 「どこかでお会いしましたっけ?」と尋ねると、 こちらの目を見据えながら、 「デビューした時から知っています。 わたしがデビューした週、あなた、見に来たでしょう」 突然そんなこと言われたって思い出せない。 「最初に拝見したのがいつかは思い出せないけど、 何度か拝見しているのはたしかです。 でもお話するのは今日がはじめてでしょう?」 確認するようにMちゃんの顔を覗き込んだ。 「違います違うんです。 あれから3年経ってますけど、あなたは合計15回、 わたしのステージを見ているのよ。 そのたびにお話しているじゃないですか」 15回? それぐらいかもしれない。 でもそんなことなんでわかるんだ。 そのたびにお話だって? 確かに視線が合ったと思うようなときはあった。 そんなときはドキッとさせられた記憶がある。 だけど今までの経験上、そう感じているのはお客だけのはずだ。 お話だなんてからかわれているのか? 「冗談でしょ。 わたしが何回見たかなんてわかるわけないでしょ。 それにお話なんて・・・」 「数えていたの。疑うんだったら、 何月何日の何回目に どこの劇場でお会いしたか全部言いましょうか? ちゃんとメモしてありますから」 「・・・・・」 「今日このお店に入った瞬間、 あなたを見つけてドキドキしちゃった。 だからどーしてもお話ししたくて隣に座ったんです」 「・・・・・」 「そう、デビューしたあの週、 最初にあなたを見つけたとき、わたし背筋がゾクッとした。 なんだか知らないけど恐かった」 「・・・・・」 「そのうちにわたしわかったの。 なんで恐かったか。 そしてあなたがなにを見つめているか。 あなたの視線の先がわたしにも見えたの」 Mちゃんはいたずらっぽく微笑んでいた。しかし目は光っていた。 おちゃらけた飲み会に ふさわしくないMちゃんの気迫に圧倒されながら、 ふと視線を泳がせると向かいに座っているKちゃんと目があった。 「M、なに絡んでいるの。 鈴木さん、困っているじゃないの。 まぁ楽しく飲みなさい」と 助け船を出してくれた。 「K姐さん、絡んでいるわけじゃぁないんです。 どうしても話さなくてはならないんです」 Mちゃんは真剣だった。 「あなたが多くのお姐さん達と親しくしているのは知っています」 「・・・・・」 「でも、誰も気づいていない。 あなたの心の中のうねりを感づいているのは たぶんわたしだけだと思うの。 だってわたしも同じなんだもん」 さらにMちゃんは私の耳元に顔を近づけ、 「でもやっぱりここじゃ話しづらいから このあと二人になれませんか?」と囁いた。 私が驚いて首を横に振ると、 「襲ったりしないって約束するからいいでしょ」 Mちゃんは私の腕をつかんで引っ張った。 私がさらに首を横に振ると、 「そうね、 A姐さんに知られたら面倒なことになるかもしれないしね。 いいわ、それじゃぁ、あとで電話してください、絶対に」 Mちゃんは私の上着のポケットに 携帯の番号を書いたメモをねじ込んで言った。 「あなたにはわかってるはずよ。 ただ、わたしが感づいていたことを知らなかっただけ。 だから驚いちゃったんですね。 絶対に電話してくださいね。 避けても無駄ですよ」 まさか本当に私の心が読めたというのか? そんなことはありえない。じっとりと汗をかいてしまった。 あれから一週間以上経っているが、まだ電話していない。 もちろんMちゃんのステージも見ていない。 確かめるのが恐いからだ。
[舞太郎](1998.1.8)