O姐さんとの電話を切ったとたんに携帯が鳴った。 てっきりO姐さんがなにか言い忘れたことでもあったのか、 と思って出たら、 なんだか懐かしい声が聞こえてきた。誰だっけ? 「もしもし・・、あのぉ、Kですけど」 「K姐さん? あれぇーどーしたんですか、おひさしぶりです」 K姐さんとは、以前はかなり密に連絡をとりあっていた。 ステージは年に一、二回見る程度だし、 劇場以外では会ったこともなかったもなかったが、 なぜか気が合って、電話では何度も話しをしていた。 ある時、K姐さんに誘われた。 「一度くらい、いっしょに飲みに行こうよ。 ごちそうするからさ」 「じゃぁ来週あたり東京で会いましょう」と約束した。 ところが急な仕事が入って行けなくなってしまった。 事前に連絡して再約束したが 今度は風邪でダウンしてまたまた行けなくなってしまった。 数日後、K姐さんが酔って電話してきて絡まれてしまった。 「せっかく楽しみにしていたのに あんたはわたしをおちょくっているの?」 その時は謝るしかなかったが、 その後気まずくなって疎遠になっていた。 「あれ以来、なんとなく連絡しずらくなっていました。 お元気でしたか。もう怒っていませんよね」 と私が尋ねると、 「あはははぁ、わたしはそんな女じゃないよ。 今日さ、こっちは雪が降って2回で終わっちゃったんだ。 いっしょにのっている新人の子とカラオケに行って、 今楽屋に戻ってきたんだけど、 暇でさぁ、誰かと話したくなって電話したの」 「わたしのことを思い出してくれただけでも嬉しいです」 私は本当に嬉しかった。 「あのさぁ、今、仕事忙しいの?」 「ぼちぼちってとこですかねぇ」 「今度こそ、どっかで会わない?」 私はちょっと考えて 「じゃぁ、来週あたり劇場に行きますよ」と答えた。 「劇場に来ないで会うことはできないの?」 思いがけない言葉に私はいろいろ考えた。 どういうことだろう? 「劇場だと追っかけさんとかがいるから いっしょに帰りづらいってこと?」 「違う」 「劇場の人に怪しまれるとまずいってこと?」 「違うってば」 「じゃぁなんだろう? わかった、今やっているステージ、 わたしに見られるのが嫌なんだ。 もしかして自分で納得できていないの?」と つい余計なことを言ってしまった。 「わたしが納得できないステージをやっていると思うの? 納得できないような出し物は絶対にやらないよ」と きつく叱られてしまった。 じゃぁなんだろう? 見当もつかないので降参した。 「だってあんたはわたしの客じゃないもん。 劇場とは切り離して会いたいの」 よくわからない、まったくわからない。 「追っかけじゃないことは確かだけど K姐さんのステージ好きだし、やっぱり客だよ」 「違う、客じゃない」 「じゃぁ、なんなの。 まさか彼っていうんじゃないでしょ。 あの彼とはまだ続いているんでしょ?」 「あのさぁ、あんたは友達なの。 客でもないし彼でもない。今のところは・・」 クスッと笑って続けた。 「でも、時どき思い出して無性に話したくなるの。 あんたと話しているとなんだかホッとするからね」 あの気丈なK姐さんが似合わないことを言う。 「ホッとするだけですか? ドキドキとかじゃないんですか?」と 私は確認した。 「ドキドキは・・・、しないね。今のところは・・」 「そうですか、それはちょっと残念です。 だけど友達っていったって ほとんど会ったこともないじゃないですか。 さしずめテレフォン・フレンドってことかなぁ。 なんだか電話でエッチなことしている仲みたいで怪しいですね」 「ほんと、このままでは怪しすぎるよ」 またまた、二人で笑った。
[舞太郎](1998.1.14)