午前中に開かれる東京での会議に出席するため、前日夜に移動した。 新宿のビジネスホテルに着いたとたんに携帯が鳴った。 出てみるとC姐さんだった。 「舞ちゃん、どこにいるの?」 「東京」 「東京のどこ?」 「新宿」 「えーっ、ラッキー。 わたしも新宿にいるの。 Aにのってるんだけど、 今終わったんだ。いっしょに遊びに行こう。 ねっ、決ーめたっ!! 今日はついてるー」 勝手に決めている。 「あのー、明日の朝、 大事な会議にでなくちゃならないから今日は駄目です」 と私は断った。 しかし、むなしい結果に終わった。 「15分後に楽屋口まで迎えに来てじゃあね」 とだけ言って切れてしまった。 「しょうがないなぁ」と呟きながらも、 私はそのままチェックインし、 フロントに荷物を預けて指定の場所まで急いだ。 なんだか嫌な予感がする。 私を見つけたC姐さんは上機嫌だった。 「あらー、スーツ姿の舞ちゃんも素敵。 へー、こんなの着て仕事してんだ。ふーん」と 上から下まで視線を流したあと、続けて言った。 「さてと、どこ行く? 今日はわたしが誘ったんだから ウンとご馳走するよ、行こ行こ」と 嫌がる私を引っ張って飲み屋街へ向かった。 席につくや否やC姐さんはぐいぐいと飲んだ。 いつものペースじゃない。 どうやら男とトラブッたようだ。 しかし、機嫌は良かったので警戒しながらもホッとした。 一時間ほど経っただろうか、 C姐さんはへべれけになってしまった。 「姐さん、今日はこれで引き上げましょう。 こっちは朝が早いんだから」と言うと 「よーっし、わかった。 帰るぞ、勘定払ってくれ」と 分厚い財布をポンっと投げてよこした。 こんなに酔っている人の財布を預かって そこからお金を払うわけにもいかないので、 その財布を返し、泣く泣く私の薄い財布から払った。 心の中ではこれでC姐さんを引っ張って行って 楽屋にほうり込んでしまえば、 私もホテルに帰ってゆっくり寝れるという安心感がひろがった。 C姐さんはフラフラしながらも 私に支えられながら楽屋へと足を進めた。 途中、看板を倒したり、ごみ箱を蹴飛ばしたりして騒いでいたが、 これは毎度のことなのでいつも通り、私が元に戻しながら進んだ。 あと200mぐらいのところまで来て急に立ち止まり、 抱きついてきた。 そして私の胸に顔を押し付け、大声で泣き出したのである。 これはまったく予想外の事態であった。 道行く人はジロジロ見ている。 二人の位置関係からC姐さんの顔はまわりからは見えない。 しかし、私はさらし者である。 「姐さん、勘弁してくださいよ。 もうすぐ楽屋ですから頑張って歩いてください」 私は懇願した。 「なに迷惑そうにしてるんだよ。このわたしがだよ、 えーっ、天下のあたしがだよ、 あんたの薄い胸で泣いてやっているんだよ。 ありがたいと思えーっ」 C姐さんはしゃくりあげながら、 わけのわからないことを叫ぶ。 「わたしの胸が薄いって? そういう姐さんの胸だって薄いじゃないですか」と 私はつい余計なことを言ってしまった。 「なんだとー、てめえは巨乳が好きなのか。 そーか、わかった。 T(私の本名)は、巨乳が好きなんだってさ。 みんな聞いてくれよー、 T(私の本名)は、巨乳が好きなんだってさー!!」 泣きながら大声で喚きはじめた。 もうたまんない。 「姐さん、お願いだから勘弁してください。 わたしはどーすりゃ、良いんですか。 さっ、おとなしく帰りましょう」 私も泣きそうになって言うと 「今日は帰らない。ぜーったい帰らない。 おめーはこんなわたしを 楽屋にいるみんなの前にさらすわけか、 えーっ、そーか、わかった、 おまえはそういう奴だったんだ」 泣きながら絡んでくる。 「だから、どーすりゃ良いんですか」 「ホテルに連れてって・・・・」 急におとなしい声で言った。 「今日はホテルに泊まるんですね。 わかりました。 近くのホテルに連れて行きますから おとなしくしてくださいよ」 私もこれで開放されると、ホッとした。 「舞ちゃんもいっしょじゃなきゃ、やだからね。 朝までちゃんといっしょにいてくんなきゃ、 やだからね」 C姐さんは言い続けた。 私はどこかのホテルにほうり込んでから 逃げちゃえっ、という思いで、 「はいはい、いっしょにいますよ」 となだめながら近くのシティホテルに入った。 私がフロントで 「シングル空いていますか?」ときくと、 横からC姐さんが 「なにーシングル? てめーは裏切るのか、えっ? ダブルだよ、ダッ!、ブッ!、ルッ!。 わたしたち、これからエッチするんだぁ。 わかってんのかぁー。 わかったら、おにいさん、ダブルお願い」 とでかい声を張りあげた。 フロントのおにいさんは再び私を見た。 私は小声で 「じゃぁ、ツインをお願いします」 とだけ言って鍵を受け取った。 騒ぐC姐さんの口を押さえながら、 部屋まで引きずって行き、 ベットの上にほうり投げた。 「じゃぁ、わたしは自分のホテルに帰りますからね」 と言って部屋を出ようとすると、 「そんなことしたらどうなるかわかんないからね。 裏切り者ーっ」と叫んでいた。 しかし、それを振り切って部屋を出た。 時計を見ると午前3時。 たまんねーなぁ、 と思いながら自分のホテルに戻ったがやっぱり心配になってきた。 迷った挙げ句、フロントに預けてあった自分の荷物を受け取り、 そのままチェックアウトした。 一歩も部屋に入らないで 荷物を預かってもらっただけで一泊分の料金を払った。 なんなんだよー、本当に。 とんでもない災難だと思いつつも乗りかかった船である。 しかたがない。 C姐さんのホテルの部屋に戻ると廊下まで聞こえる声で泣いていた。 鍵がかかっている。 私はフロントに行ってスペアキーを貸してもらい部屋に入った。 しかし、C姐さんの姿はなかった。 声は聞こえるのだがいないのである。 探してみると、バスルームで泣いていた。 「戻ってきたから出てきてくださいよ。 そんなとこで泣いてないでこっちで泣いてください」 と私は声をかけた。 C姐さんはしゃくりあげながら、 「やっぱり、舞ちゃんだ。 えーん、ありがとう、ありがとう。 みっともないとこ見せちゃったね。えーん」と泣いていた。 「そう言われてもなぁ」と呟きながらも戻ってきて良かったと思った。 20分くらい待っているとC姐さんはバスルームから出てきた。 まだすこし、ひっくひっくしていたがだいぶん落ち着いてきたようだ。 「わたし、いっつも辛い思いするから、 男は懲り懲りだと思っていたの、ずっと。 恋愛なんかするもんかーって思っていたの。 でもやっぱり、駄目ね。また泣いちゃったぁ」 「そういうもんですよ。男と女は。 さぁーさぁー、もう寝ましょう、ここで寝てください」 「舞ちゃんが、いっしょに寝てくれるんなら寝る」 ひっくひっくしながら赤い目で言った。 ここで逆らってまた騒がれてもと思い決心した。 C姐さんの着替えを手伝い、私も着替えた。 言われた通り、いっしょのベッドに入った。 「ごめんね、ごめんね」と言いながら、チュバチュバとキスしてきた。 私が寝たふりしているとやがてC姐さんは寝息をたてはじめた。 私はそっと起きてもうひとつのベッドで横になった。 時計を見ると、午前5時。疲れた。 もうすぐ仕事に行かなくちゃ、ふーっ。 隣のベッドではあの偉大なC姐さんが、 化粧も髪もぐちゃぐちゃになって、すやすや寝ている。 今回は本当に参った。 「明日からまた頑張ってくださいよ、C姐さん!! この貸しはきっちりステージで返してくださいね!!」
[舞太郎](1998.1.20)