秘密

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 僕よりずっと年下だったが

彼女のことを姐さんと呼んでいた。

それだけの貫禄を漂わせていたのだ。

切れのあるステージで

いつも僕のハートをドキドキさせてくれた。

親しくなってからは

「お願いだから名前で呼んで」と言われたが

僕にとってはやっぱり姐さんだった。


 かなり以前からお互いに顔は知っていたけど、

当初はなかなか親しい関係にはならなかった。

それにはちょっとした理由があった。

僕が親しくしていた踊り子さんと

姐さんはあまり仲が良くなかったからだ。

それでなんとなくお互いに距離をおいていた。


 トップスターの姐さんと他の踊り子さんの一ファンである僕、

だだでさえ大きな距離があるのに、

お互いがなんとなくでも避けていると絶対に接点はない。


 本来ならなにも変わるはずのなかったそういう関係が

神様のいたずらなのかまったく予想外の方向に進んでしまった。


 外の世界でばったり会ってしまったのをきっかけに

急展開したのである。



「よぉっ!! 舞ちゃんじゃないの? こんなとこでなにしてるの?」

 ポンと肩を叩かれ振り返ると、そこには姐さんがいた。


  ほとんど話したこともないあの姐さんが

僕に声をかけてくれたのである。


 僕は驚き焦ってしまってモゴモゴとはっきりしない挨拶をした。


 姐さんは笑っていた。


 しばらく立ち話をしたあと、食事に誘われた。

腕時計を見ると午後9時をまわったところであった。


「わたしさぁ、この近くに住んでいるんだけど、

 どっかで飯を食って帰ろうと思っていたんだ。

 ひとりじゃつまんないからいっしょに行こうよ。ごちそうするからさぁ」


 僕は躊躇した。踊り子さんの人間関係図が頭の中でチカチカした。


 すると姐さんはそれを察したのか、

「だいじょうぶだよ、迷惑だったら、

 Kにも秘密にしとくから・・・」と言った。


 姐さんは自分が

後輩達からなんて言われているのか知っているんだ。
 

 なんだか無性に恥ずかしくなってきた。

まわりからの先入観に縛られている自分が恥ずかしくなってきた。

 
 だんだんと申し訳ない気持ちになり、

僕がご馳走するという条件でOKした。



 軽い食事のつもりがえんえんと飲み続けた。

ふだんはあまり飲まない僕もなんだかつられて飲んだ。

外が明るくなりはじめた頃、ようやく二人は席を立った。


 姐さんはかなり酔っていて

ひとりで立っていられない状態だった。


 姐さんの腕を肩にかけ、引きずるようにして店を出た。 

道みち、姐さんはご機嫌で奇声をあげ続けた。


 しばらく行くと、

姐さんは僕の肩から腕を振り解き、

ひとりでふらふらと歩き出した。

僕は後ろからぼんやり眺めていた。


 すると、怪しげなスナックの前に止まっていた

黒塗りのベンツの方に進んで行った。

そしてなにを血迷ったのか、

そのドアを勢いよく蹴飛ばしたのである。


 ベコッ!!っと嫌な音がした。


 続けて叫んだ。

「こんなちんけな車に乗ってるんじゃねーよぉー!!

 どこのどいつだー、糞ったれーー、出てこーい!!」


 僕のチンチンは縮みあがった。

わめき続ける姐さんを問答無用で引きずってひたすら逃げた。

(捕まったら殺される。)

頭の中は真っ白だった。


 どれだけ走っただろうか。無我夢中で覚えていない。

息も切れて、

もう駄目っというところで二人して道路に倒れ込んだ。


 僕は息ができなくゼーゼーしていた。姐さんも唸っていた。 


 しばらくしてなんだか可笑しくなってきた。

二人で仰向けに寝転がって

明るくなりかけた空を見上げてゼーゼーいっている。

姐さんも笑い出した。


 二人してお腹を抱えて笑ってまた息が苦しくなった。



 それから再び姐さんを引きずってひたすら歩き、

姐さんのマンションに到着した。

通常だったらいろいろ考えたりもしたのだろうが

その時は気が大きくなっていて、

姐さんを引きずったまま部屋に上がり、

ベッドを探して姐さんを放り投げた。


 僕も疲れ果ててリビングのソファーでゴロリと横になった。


 ウトウトしかかったところで姐さんが言った。

「舞ちゃーん、まだ起きてる?

 すんごい、おもしろかったねー、あははっ。

 二人ですんごい秘密つくっちゃったねー、あははっ」


 本当にそうである。

勘弁して欲しい。こんなこと誰にも話せない。



[舞太郎](1998.2.4)


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