(体が重い、動かない、どうしちゃったんだろう。) さっきから手拍子しようとしているのだが、 体がまったく言うことをきかないのである。 ダラーッと椅子にもたれかかった姿勢のまま、 身動きできなくもがいている。 目も閉じたまま開かないのである。 (この曲はトリのK姐さんだ。 どうしよう、眠っていると勘違いされてしまう。) もがき続けているうちに、ステージは終わってしまった。 そして、閉館案内のテープが流れはじめた。 まわりのお客さんは席を立ち、帰りはじめたようだ。 「ありがとうございました」 という従業員のTちゃんの声も聞こえる。 (私もはやく立ち上がらなくっちゃ。) やがて、Tちゃんが近づいてきた。 「舞ちゃん、寝てるの? もう終わりだよ、さぁ起きて!!」 彼は私の肩に手をかけてゆすった。 私も返事をしようとするが声が出ない。 彼の手が私の頬に触れた。 その瞬間、 「ひゃっ!!」という声を発して、 彼は慌てて走り去った。 途中で塵取りでも蹴飛ばしたのか、大きな音がした。 Tちゃんは事務所の方で、 「社長ーぉ、社長ーぉ、たっ大変です、 ちょっと来てください」と喚いている。 しばらくして私のまわりに人が集まってきた。 話し声からすると踊り子さんもいるようだ。 なんだか私は大変なことになっているらしい。 誰かが私の首のあたりを触っている。 「死んでる・・・」 社長の声。 「救急車を呼びましょうか?」 K姐さんの声だ。 「いや無駄だ、 もうだいぶたっているようだから・・・」 社長の声。 しばらくの沈黙が続いた。 「あとはこっちで処理するから 女の子は楽屋に戻りなさい。 このことは誰にも言うな、忘れろ」と、 有無を言わさぬ強い口調で社長は言った。 「私はここにいてもいいよね、大丈夫だから・・・」 K姐さんの問いに社長はこたえなかった。 (なんということだ。 私はストリップを見ながら 死んでしまったらしい。 どうせいつ死んでもおかしくない体だったので どこで死んだって良いんだけど・・・。 でもあまりにも突然だなぁー、 みんなにも迷惑かけてるみたいだし、 本当に申し訳ない。) 「警察に連絡ぅ・・・・・・・、 するわけないですよね。」 Tちゃんが小さな声で言った。 この手の場所は、警察沙汰になることを極端に恐れる。 そんなきっかけを与えると、 警察はそれを口実にとんでもないことまでやりかねないからだ。 とばっちりで済む話ではない。 「舞ちゃんには悪いけど仕方ないね。 舞ちゃんならわかってくれると思う」 K姐さんは申し訳なさそうに言った。 (わかっているってぇ、 ためらうことはないよ、さっさと運んでくれ。 お世話になった人たちを ここでこんな風に困らせているのこそ耐えられない。 さぁ早く。) 心の中で必死に叫んでいるのだが彼らには聞こえないようだ。 社長がおもむろに言った。 「車を楽屋口にまわしてくれ。 宣伝カーはだめだ、目立たないワゴンのほうだ。 それからこの間ろうそくショーで使った青いビニールシート、 あれまだあるよな? どこにしまったっけ?」 まわりの人がいっせいに動き出した。 やがて私は青いビニールシートに包まれ、車に乗せられた。 車が発進しようとした時、K姐さんの声が聞こえた。 「私も連れてって」 ドアが開き、乗り込んだようだ。 沈黙が流れた。 かすかなすすり泣く声に あわせて私の右肩のあたりを誰かが摩ってくれている。 やさしい温もりを感じる。たぶんK姐さんだろう。 どれくらいたったのかわからないが車は止まった。 ドアが開き、私は降ろされた。 ビニールシートが外され、丁寧に寝かされた。 「お墓できたら必ずお参りに行くからね。 YやAも連れてくからね。 ちょっとの間、さみしいだろうけど我慢してね、 ごめんね、ごめんね」 K姐さんの声が聞こえた後、ドアが閉まり、車は走り去った。 (K姐さんありがとう。 社長、Tちゃんお手数かけました。) 水の流れる音がかすかに聞こえる。 ここは河原のようだ。 そしてここが私の死んだ場所。 さてと、いろんなやさしさに包ってゆっくり眠ろう。
[舞太郎](1998.10.21)