「キスマークつけていい?」 横で寝ているKが言った。 「いいよ」と、私はあっさり答えた。 「本当にいいの?奥さんに見つかったら困るでしょ」 私はぼんやりと考えた。 (彼女は怒るだろうか?たぶん大丈夫だ。 他に怒る人がいるだろうか? たぶんいない) 「困らないよ、そんなことで。 つけたいならいくらでもつければいい。 でも、どうしてそんなことしたいの?」 Kは私の左腕にしがみつき、 「執着しているから」と小さな声で言った。 「他の男にもキスマークをつけるの?」 「ばーか、あんただけだよ」とKは口を尖らせた。 私はこれを聞いてプッと吹いてしまった。 ありがとうと素直に喜べるほど若くもないし、 お人好しでもないからである。 「Kにもつけてみたいけど、それは無理な相談だね?」 Kの仕事を考えると到底無理だと分かっていた。 しかし、私もつけてみたいという意思だけは伝えたかった。 「そうねーぇ、 普通だったら人目につかない場所にお願い と言いたいところだけど、 私の身体で人目につかない部分なんてないもんね」と、 Kはちょっと寂しそうにそして悲しそうに言った。 どんな職業にも その職業ゆえの制約ってものはあるのだろうけど、 それを差し引いてもちょっと寂しい気分になった。
[舞太郎](1998.12.13)