入籍

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「結婚しよう」

私は思いきって言った。Jちゃんは黙っていた。


Jちゃんの仕事はストリッパーである。

旅に出る機会も多く普通の会社員である私との生活は

Jちゃんが通える劇場にのるときだけであった。


結婚したとしてもこの生活は変わらない。

だけれどなんとなく形式上の絆が

ほしかったのかもしれない。

プロポーズすれば彼女が喜ぶとも思った。


しばらくたってJちゃんは口を開いた。

「今のままじゃだめなの?  私、結婚はできないの」


「どうして?」 私は混乱した。


「籍を入れることができないの」


「どういうこと?」私はますます混乱した。


「驚かない?」彼女はすごく心配そうな顔をした。


「いずれは話さなくてはと思っていた・・。

 実は私、戸籍がないの」


「えっ?」頭の中はグルグルと回った。


「どういうことなの?  両親が不明とかだったの?」


「ううん違う。両親はちゃんといたの。

  私は間違いなく両親から産まれたらしいわ。

  家はね、お兄ちゃん1人、弟2人の4人兄弟。

  自分が大きくなってから気がついたんだけど

 私と末の弟の戸籍がないの。

  生まれたときに届けなかったみたい。

 家さぁ、貧しかったから、

  捨てるか間引きでもしようと

 思っていたのかもしれないわ。

  でも、ずるずると手元に置いて育てちゃったみたい」


あまりの衝撃に

私は「うん、うん」と肯きながら聞いているだけだった。


Jちゃんは無表情で淡たんと話し続けた。


「私、本当はこの世に存在してないの。

 学校だってほとんど通っていないのよ。

  理由は分からないけど

 小学校の途中までは学校に行ってた。

  戸籍がなくてもだいじょうぶらしかった。

  でも、それからまったく行ってない。

  私、車の免許もとれないし、

 できる仕事も限られちゃってぇ。

  ストリップが嫌なわけじゃないの。

  そういう意味じゃないけど

 背負うものが重すぎるし苦しいの。

  わかったぁ、

 この世に存在しない幽霊と

 結婚なんかできないでしょう」


私は涙が溢れた。そしてJちゃんを抱きしめた。


「結婚しよう、幸せになろう。

 今日から夫婦だ、そうだろ?

  幽霊じゃない、ここにいるじゃない。

 こうしているじゃないか。

  そうだろうそうだろう」


Jちゃんも泣いた。声を出して泣いた。

[舞太郎](1997.11.19)


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