その頃、 私の唯一の楽しみは ストリップショーを見ることであった。 お気に入りのTちゃんが 近くの劇場に来たときは必ず見に行っていた。 そうはいっても貧乏学生の私は毎日通ってタンバリンを叩いたり、 プレゼントをしたりなんて夢のまた夢。 Tちゃんが近くに来ている時に一度か二度、 見に行くのが精一杯の贅沢であった。 もちろんTちゃんと話したこともない。 いつも遠くから眺めているだけである。 私にとっては雲の上の女神様のような存在だった。 「明日は劇場へ行くぞ」なんてときは 嬉しくて文字どおり夜も眠れなかった。 場内に入ってもTちゃんのステージ以外はうわの空で、 いよいよTちゃんが登場するときには 自分の心臓の音が聞こえる程だった。 その日も私は劇場に行った。 そしてその日はクリスマスイブだった。 外の世界は華やいだ雰囲気でいっぱいだった。 しかし、 場内に一歩足を踏み入れるとそこはいつもと同じ別世界であった。 私はTちゃんのステージをドキドキしながら堪能した。 最後のオープンのとき、Tちゃんは籠を持って現れた。 そしてお客さんに小さな包みを配っていた。 (Tちゃんからのクリスマス・プレゼントだ。) 私も欲しくて手を差し出した。 誰よりも欲しかったので誰よりも前に手を差し出した。 内気な私にとって勇気をふりしぼっての行動であった。 しかし・・・、 私の前に来たTちゃんはスッと通り過ぎてしまった。 あっさりとである。 ショックだった。本当にショックだった。 貰えなかったということより チラッと私を見て通り過ぎたような気がしたからだ。 「考え過ぎだ」と自分自身に言いきかせた。 頭の中は真っ白だった。 「なぜなんだろう、 いや、考え過ぎだ。 どうして・・・、 考え過ぎだって」 目眩がした。 ハッと気がついたときには出演者全員のステージが終わり、 フィナーレの最中であった。 やがて幕がススッーと閉まった。 場内の照明がつき、お客は席を立ち始めた。 私の頭の中はまだ真っ白だった。 どれだけの時間がたったのかわからない、 一瞬だったのかもしれない。 幕が少しだけ開き、Tちゃんが飛び出してきた。 そして私の前まで走ってきたのである。 Tちゃんは手に持った紙袋を差し出して、 「いつもありがとう。 これ、クリスマス・プレゼント」と言った。 私がポカンとしていると、 手を振りながら幕の中に消えて行った。 私の手には、さっきみんなに配っていたものより、 百倍も大きくて、 百倍も重くて、 百倍も暖かい紙袋があった。 それは予想もしなかった最高のクリスマス・プレゼントだった。 私の頭の中はさらに真っ白になった。そして、さらに目眩がした。
[舞太郎](1997.11.28)