再会

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 親友と会った。

彼女とは、もう15年以上の付き合いになる。


  彼女と出会った当時、

私は高校を卒業し調理師を目指して中華料理屋で修行中だった。

上海生まれで北京育ちの母の影響か、

私は子供の頃から中華料理が大好きで、

将来は自分で作った料理を

みんなに食べてもらいたいと思っていたからだ。


  夢は大きかったが現実は厳しかった。

早朝から深夜まで怒鳴られ、

こき使われ、くたくただった。

給料も少なく、

たとえ休みがあったとしても遊ぶ金はまったくなかった。

唯一の楽しみは休憩時間に、

職場近くの人通りの多いバスターミナルのベンチに

座って行き交う人を眺めることだった。


  暗い厨房の中で一日を過ごし、

部屋に帰っても万年床ですぐに眠りに落ちた。

そんな私にとって多くの人を眺めることは、

自分の心のバランスを保つのに必要な楽しみであった。


  そんなある日、ひとりのかわいい女子高生と知り合った。

いつものベンチに座っていると

彼女がたまたま私の前のベンチに座ったのだ。

  どこからそんな勇気が湧いたのか、

自分でも信じられなかったが私から声をかけたのである。



  そして若いふたりの友達関係がはじまった。

彼女は学校帰りに私のアパートに寄るようになった。



  半年後、

彼女は高校を卒業し、地元の銀行に就職した。

私も事情があって調理師の夢を捨て

今後何をしようか考えるために大学に入学した。


  お互いがそれぞれの道に進んだため、

接点が少なくなり自然に疎遠になっていった。      


  しかし、その後も年に何度か連絡だけは取り合っていた。



  5年ほどたったときであったろうか

彼女から突然の電話があった。

「わたし、子供を産んだの」


「えっ、いつ!?」


「半年ぐらい前」


「それはおめでとう。

 いつ結婚したんだっけ? 全然知らなかった」


「ううん、結婚してないの。相手は妻子持ちでわたしはお妾さん」


「どっ、どういうこと。今、彼といっしょに暮らしているの?」


「それが別れ話になっていて彼とは会っていないの。

  時どき、彼のお父さんが話し合いに来るけど・・・、

 お金で解決しようとしてるの。

  わたし、自分の親にも内緒で産んだんだ。

  けど、どうしようもなくなって、

 この間、このこと話したら勘当されちゃった。

  ひとりでどうしたらいいかわからなくなっちゃって・・・」
 

  そうか、そういうことか。

それで私に連絡してきたのだ。

私は人から特に女性からの相談事が多い。

おせっかいな私はついつい面倒をみてしまう。


  自分で言うのは気が引けるがそれからの私の活躍は凄かった。

すでに精神的負荷と過労のため限界にきていた彼女に代わって

いろいろ働いた。

  まず、週に何度か彼女の家に泊まって、

夜泣きのために慢性的睡眠不足になっていた彼女を寝かせ、

私が赤ちゃんの世話をした。


  養育費の金額交渉は大変だった。

いろいろ調べたり考えた末、

総額を減らして一括で貰うことにした。

相手が途中で払えなくなったりしたときのことを考えての結論だった。


  また、彼女の今後の生活の自立のために、

子供を預かってくれる公的施設を調べたりした。

  本当に大忙しだった。



  一年ぐらいゴタゴタしたが

やっと安定した生活のリズムを取り戻し、

私を必要とするのは

子供を動物園や遊園地に連れて行くときぐらいになった。

  それも回数がじょじょに減り、

また昔のように疎遠になっていった。


  数年後、

彼女から連絡があり別の男性と結婚するということだった。

幸せそうな彼女の声に私も自分のことのように喜んだ。 


  それ以後も時どき連絡は取り続けていたが一度も会っていなかった。


  今回は本当に久しぶりの再会だった。

あの時の赤ちゃんはもう小学3年生になったという。

時がたつのがはやい。


「あん時、舞ちゃんには本当に世話になったね。

 あんたにだけは借りがあるわ」


「そう言ってもらえるだけで嬉しいよ。 

 でも、借りは返さなくていいよ。

  もっと利息が貯まってから返してもらうから」


ふたりで笑った。


「そんなこと言ってると、永遠に返せなくなってしまうよ。

  身体で返すったってどんどん価値はさがって行くしね。

  逆に借りが増えちゃったりして」


ふたりで笑った。


  実は私たちは、まだ一度も寝たことがなかった。

何度も同じ部屋で寝泊まりしているのに、不思議な話である。


「まだまだ若くて奇麗だし、僕にはもったいないよ」

と私が言うと、

彼女は私を睨みつけ、私のすねを軽く蹴った。

お世辞か嫌みと勘違いようだ。


  私は嘘を言っていない。

事実彼女はもともと童顔でスリムなせいか、美しかった。

それに経済的に安定しているのか、

ブランド品で包まれた彼女の姿は10歳程若く見えた。


「あの頃さぁ、舞ちゃんが本気でプロポーズしてくれたら、

  わたしの人生は違っていたと思う。

  そんなことありえないってわかっていたけど・・・・」


  彼女はポツリと言った。


  笑いながら彼女の目を見ると笑っていなかった。マジだった。


  そんならそうともっとはやく言って欲しかった。もったいない話である。


[舞太郎](1997.12.24)


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